デリカシーのない父親が困惑するとき

小学校高学年になる娘がいる。ぶりっ子が嫌いで、男の子を蹴飛ばし、いつも「あいつぶっ殺す」などと物騒な話し方をするかわいい娘だ。

あるとき帰宅すると娘がいつになく元気がない。話しかけると腹が痛いという。この年になるまであまり風邪もひかず、病気らしい病気もしたことがない。珍しいこともあるものだなと思っていた。よくあることだが冷蔵庫の野菜室の奥で干からびた野菜を嫁が料理に使って、それにでも食あたりしたのだろうと考えていた。

しかし、娘が風呂に入る番になって嫁が付きそっていき、しばらくすると嫁が血相を変えて「今からドラッグストアーへ行ってくる!」という。「どうした?」と聞くといわいる女性特有の「生理現象」がきたらしい。初めてである。

「絶対にこのことに触れたらダメよ!」と嫁にクギを刺された。人一倍デリカシーのない自分でも、まあそうだろうなあ、と思った。しかし、父親として複雑な心境ではあった。喜ぶべきことなのではあろうけども、あの男勝りでクールな娘がね…。女になりましたか…。

次の日、会社で女性の同僚にそのことを話すと「それには絶対に触れないほうがいい。娘にものすごく軽蔑されるよ!」だそうだ。その同僚は初めて生理がきたとき、両親がコソコソ話をしていて父親と目が合った瞬間、ものすごい嫌悪感を覚えたらしい。

その話を聞き、男として女の子の微妙な感情がわからないので、ものすごく深刻になってしまった。どうやって娘と接しよう…。いや、そこは普通でいいだろ!と、一人ツッコミしながら家に帰った。

その日のご飯はもちろん赤飯だった。嫁からは目くばせで「何も言うな!」という凍りつくような目つきで無言の圧力を受けた。いやいや、いくらオレでもそれくらいはわかってます。信用されていないんだろう。まあ、口がスベッて修羅場にあったことはたくさんあるのでなんとも言えない。

娘といえばまだ腹が痛いらしく、いつになく元気がない。どう声をかければいいかわからない。まあ、触れてはならないことなので黙っていた。変に緊張した自分がここにいた。

そして事件は起きた。

うちの家族はだれが一番最初に風呂に入るかでモメる。子供はゲームをしているし、自分は酒を飲んでいるし、嫁はテレビを見ているし、だれもかれもが最後に入りたがった。

しかし、子供は学校があるので早く寝かせないといけない。だからいつも娘は「〇〇ちゃん!早くお風呂、先に入りなさい!」と嫁に怒られている。

そして事件の日、風呂が沸いたとき嫁はいつものクセで「〇〇ちゃん、お風呂、先に入りなさい」と言ってしまった。そしたら娘は

「え!わたし、生理だよ!おふろ、血の海にしていいの!わははははははははははははははははははは!」

なんと娘は勝ち誇るように叫び、笑い転げている。たしかに風呂にあとから入る理由としてはこれほど確かなことはない。しかし、その叫びを聞いた私たち夫婦は顔を見あわせ凍りついてしまった。なんてこというねん!

そのあと娘は嫁に別部屋へ呼び出されこっぴどく怒られた。そんなこと人前で大声で叫けぶんじゃないと。

当たり前だよ娘よ。そんなこと叫ぶもんじゃない。深刻に悩んでいた自分がバカじゃないか…。