村上春樹著「遠い太鼓」に救われたお話

最近、村上春樹著「遠い太鼓」というエッセイというか、旅行記というか本を読み返している。30年前に発行されたもう古典といっていいほど古い本で、村上春樹氏が1986年から約3年間、ギリシャやローマなどに滞在したときのことが書かれている。

自分が買ったのは学生時代で二十歳になるかならないかだったと思う。その時代、本当に出不精で一人暮らしのときアパートからほとんど出ない引きこもりのような生活をしていた。なのでこのような旅行記を読んで旅した気分を一人楽しんでいた。

しかし、この「遠い太鼓」には変に魅了するところがあり、買った時から何回も読み直す、また適当なページを開いてさらっと目を通すということを今にいたるまでしている。もうかれこれ紙の書籍にして2冊、kindleで1冊と、もの好きにも3回も買い替えた。

そんな自分にとって魅力的な「遠い太鼓」であるが、ただ楽しませてもらっているだけでなく、ある教訓めいて書かれた1文によって自分の人生が何度も救われることになる。何が書かれているかというと、

僕が結婚生活で学んだ人生の秘密はこういうことである。まだ知らない方はよく覚えておいてください。女性は怒りたいことがあるから怒るのではなくて、怒りたいから怒っているのだ。そして怒りたいときにちゃんと怒らせておかないと、先にいってもっとひどいことになるのだ

この「遠い太鼓」というエッセイの中で唯一といっていいくらい太文字で書かれた部分でもある。

自分は何人かの女性とお付き合いをしたことがあるがまったく喧嘩をしたことがない。また、現在の嫁と結婚生活は十数年になるがまったく喧嘩をしたことがない。喧嘩をしたことがないというのは仲がいいというわけではなく、彼女たちはめちゃくちゃ怒る。でも自分は何も言い返さない。嵐が、怒りが、吹き荒れる怒涛のような感情が、罵声が、収まるのを自分はじっと我慢しているのだ。

まあ、ほとんど自分が悪いので言い返すことができないということもあるけれど、なかにはそんなに言わなくてもと内心、怒りに震えることもある。しかし、あのとき読んだ「遠い太鼓」の一文を心の中で何度も反芻し、我慢に我慢を重ねる。

そのおかげで何度も救われた。自分が言い返そうものなら、おそらく収拾がつかなくなって、お互いがひどく傷つく場面も出てきたであろうに、そういうことは一度もなかったし今もない。そして、怒られている自分も傷つくことなくことなく平静でいられた。

これもすべてあの1文のおかげである。これほど実践的で役に立つ人間心理を処世術を女性の扱い方をほかには知らない。ありがとう村上春樹さん、あなたのおかげで今も平和に暮らせています。

 

遠い太鼓 (講談社文庫)

遠い太鼓 (講談社文庫)