スーツに辱しめられた日

今年より、ある会合のメンバーに参加することなった。そして、今日、その会合の親睦会が大手ホテルにて開かれることとなる。今年、唯一の新規会員となる私の自己紹介をしたいということで、参加するよう強く強く頼まれた。あまりそういう大勢の場に出ることになれていないのと、人づきあいが苦手なのとで極力そういう会には参加しないようにしているのだけれど、まあ、一回くらいはいいかということで参加することにした。

もちろん参加するときの衣装はスーツだという。うちの会社では仕事のとき、スーツを着ることはない。わたしが最近スーツを着たのは2年くらい前になる。そして、そのスーツというのが3年前に買ったものだ。

じつは過去、わたしはすごく太っておりちょっと体調を壊してしまった。これは痩せなければということで3年前に減量をし、なんと12キロも痩せた。痩せたことの喜びから、なぜか必要もないのにスーツを買ってしまったのだ。某紳士服チェーン店で、年甲斐にもなくスリムタイプのスーツだ。でも、そのときは痩せていたので結構びしっと決まっていた、と自分では思う。

2年前も、そのスーツは着れたのだから今日の親睦会もちゃんと着れると安心しきっていた。親睦会が始まる3時間前、いちおう試しにスーツを着ようとヨメさんに出してもらう。「久々だなスーツなんて」と感慨にふけりながらズボンをはく。

え?ちょっとまって!チャックが閉まらない!なんとチャックを2/3まで上げたところで、テコのように動かなくなった。え!マジか!!そう、この2年間でスーツが着れなくなるほど太ったのである。

これはヤバイ…。スーツの上着は何とか着ることができた。問題はズボンだ。現時点で親睦会開催まで2時間半。もうチャックを上げようと必死にもがいて何とか上げることができた。そして、これもやっとのことでチャックの上にあるボタンを留める。それはそれは、もう、お尻のほうがパツンパツンで、今にも破けそうだったのでそのまま棒立ち状態である。歩けない、これはヤバイ…。隣にいるヨメさんは笑うどころか、ものすごく冷ややかな目で見ている。

ヨメさんが「ちょっとしゃがんでみれば?」と言う。「それで大丈夫ならいけるよ」と、何の関心もなくぶっきらぼうに言い放つ。

そして、事件は起こる

「そうだよな、このスーツはストレッチがよく効くやつだし、しゃがめれば問題ないよな」と根拠のない仮定を立てて、ゆっくりとしゃがんでみる。おお!大丈夫そうだ。中腰くらいになると、ケツの部分が悲鳴を上げそうなくらい伸びたが、ちゃんとストレッチしてくれている。「よし、このまましゃがめれば大丈夫だ」と少し安心しながら、腰を落としていく。そして…。

「パシッ! コロンコロン…。」

?!

えええ!ズボンのボタンがはじけ飛びやがった!やばかったのはケツではなかった、前だったのだ。しゃがむことで腹が出っ張り、ズボンのボタンの糸が耐えきれなくブチ切れたのだ。おまけに支えきれなくなったチャックまで「ジーーーッ」と下がってしまった。横で嫁が大爆笑している。こんな辱めは生まれて初めてだ。

親睦会まであと2時間

ヤバイヤバイと思いながら、時計を見ると親睦会の開始時間まで2時間を切っている。いまからスーツを買いに行くわけにもいかない。いっそのことインフルエンザにかかったと嘘をついて休もうか。いやいや、明日から仕事だし、もし、知り合いが来たら終わりだ。もう、あたふたすること慌しい。いつもの冷静沈着なわたしはどこへやら、ズボンのチャックを下げたままジタバタ考えていた。

「早くズボン脱いで。ボタン縫い付けるから」と、ヨメさんが言う。そうだよね、それしかない。ということでいそいそとズボンを脱ぎ、ヨメさんに渡す。わたしはパンツのまま体育座りをして、おのれの情けなさに泣きそうになりながら、ヨメさんの作業を見ていた。

いったい何キロ太ったんだろう。痩せてからというもの、体重計に乗っていない。いちおう食事にも気をつけていたし、仕事がら肉体労働なので体は動かしている。しかし、実際にスーツが着れないくらい太ったのだ。

緊張しまくりの親睦会

「はい、できたわよ」とヨメさんがいい、ズボンを渡してもらう。ボタンのところを見ると、それはそれはガッチリと縫い付けてある。縫う穴が全部埋まるくらいに何重にも縫い付けてある。これで大丈夫だ!という凄みも感じさせる。

ということで、またまた悪戦苦闘しながらズボンを履く。ボタンもいい感じにハマってくれた。そして、腹があまり飛び出ないようにとめちゃくちゃに強くベルトをしめた。どこかの戦争に行くみたいにこんなに服装に準備をかけたのは初めてだ。

まあ、なんとか大丈夫だろう、ということで親睦会へ行く。結果からいうと、いつボタンがはじけ飛び、ドリフばりにズボンがずり落ちるかと気にしまくりの緊張しまくりだった。動けばヤバイとずっと椅子に座り、ひとり黙々と食事をし酒を飲んで終わった。そして、なんとか無事に終わる。たかだか1時間の会合だけれど、何時間もいたような疲れ具合…。お疲れ様、おれ…。

教訓

年をとったら自分の体型、体重を過信しないことだ。そして、着る機会がなくともスーツは定期的に来て、スタイルに合うか確かめる!以上!